1995年に93歳で没したイギリスの女性陶芸家、ルーシー・リーの大回顧展が国立新美術館で開催されています(もう会期終了間際ですが)。先週見に行ったので、ちょこっとご報告を。
*思わずいっぱい写真を載せてしまいました!(ぜんぶ、公式カタログのページを撮っただけなんだけど…)

*青釉鉢(Blue glazed bowl), 1978年頃の作, 磁器, 東京国立近代美術館蔵
深い深い、宝石のような透明感のあるコバルトブルー(ターコイズブルー?)の、壊れそうに薄い磁器の器。これが大アップになったポスターを、ここ数ヶ月間、都内の駅や電車の車内のあちこちで見かけました。この人の作品、どこかふわっとしている。不安定な感じ、あるいは、いまにも翼が生えて翔び立ってしまいそうな雰囲気。高台から口縁までの広がり方は、ふんわり開いた花のかたちにも見える。

*ピンク線文鉢(Bowl decorated with pink lines), 1980年頃の作, 磁器, 個人蔵
ピンクの器も、ブルーのに負けず劣らず、一度見たら忘れられないルーシー・リーに独特の鮮やかにして妖しい色合い。かすかに発光しているかのような。
‘線文鉢’って、ルーシー作品に固有なのかそれとも陶芸に一般的なのか、門外漢の私にはわからないのだけど、思わず‘縄文鉢’って読み違えてしまう。ぜんぜん縄文じゃないですが。
細い金属の棒で器の生地を引っかき落とし、線を刻む技法が‘線文’とのこと。初期は引っかき落とした跡に素地の土の色が出てくるというだけだったけれど、ある時期からこの溝に色土を埋め込む象嵌技法を重ね合わせ、ルーシーの‘線文’はさらに複雑にして繊細な味わいを増していく。
なんだか、小さな器のなかに、これでもかこれでもかと手数を刻み込んでいる、そういう印象を受けるのです。全体の印象は軽いんだけど、同時にどこまでも深い。
ちなみに上の「ピンク線文鉢」、写真では見えにくいけれど、タテに無数に細かいラインが刻みつけられています。かすかにグリーンを帯びた、無数の、細い細い手書きの垂直ライン。
*ピンク線文鉢(Bowl with pink stripes), 1970年代後半の作, 磁器, 東京国立近代美術館蔵
一見、とっても日本的な「湯呑み茶碗」にも似たかたちの器。大きさもちょうどそのくらいかな。でも、この色は、ないでしょう。上から、鈍い金属性の光沢を放つ、少しムラのあるブロンズ色、その下に、白地に水平方向のピンクの象嵌ライン(白地が滲んだようにピンク色に染まっている)、その下につやのあるターコイズブルー、そして最下部にふたたび渋い光沢のブロンズ色。なんだか、しみじみと、‘たからもの’感があるなぁー。でもこの感じ、もしかして女性専科かも?
(ミュージアムショップで、このボウルの表面に思い切り寄った図柄のマグネット、ゲットしました。 →ミュージアムグッズ獲得記へ)
*上: 線文円筒花器(青)(Cylindrical vase decorated with lines (bleu)), 1976年頃の作, 磁器, 個人蔵
*中右: スパイラル文花器(Vase with spiral), 1975年作, 陶器, 愛知県陶磁資料館蔵
*下左: 白釉花器(White glazed vase), 1980年代の作, 陶器, アサヒビール大山崎山荘美術館蔵
*下右: 線文花器(ピンク)(Vase decorated with lines (pink)), 1990年頃の作, 磁器, 個人蔵
さてさてここから、本命登場!?、です。
天に向かって開口部がラッパ状に大きく開く、ルーシー独特の形状の花器たち。
壷(あるいは筒)状の下部と、ラッパ状の上部は別々に成形され、ろくろの上で繋ぎ合わされる。
繋ぎ目の首の、まるで鶴の首のように、細長~いこと! 頭が大きすぎてバランスが危うい、というか、いまにも倒れそう、、、な印象を受ける。倒れないんだけど。
踊り出しそうな、歌っているような、今にも翔び立ちそうな気配を感じます。
もったいなくて(…)花を活けられない、って、私は思ってしまうけれど(‘開花’しているみたいな形状の上部が、すでに、活けられるべき花を代替している気がする。花器なのに花なくして完結している、というか。でももしかして‘作品’としての陶磁器って、そういうものだった??!)、う~ん、どんなに美しくても「使える」ものであってほしいなあ、、、あ、いや、花は活けられなくても、ただ飾っておく(という使い方をする)ことはできるか。。。
*上:線文鉢(Bowl decorated with lines), 1970年頃の作, 磁器 ,東京国立近代美術館蔵
*下:溶岩釉大鉢(マーブル)(Large bowl with volcanic glaze (marbled)), 1979年頃の作, 陶器, 愛知県陶磁資料館蔵
最後に、インパクトの強い色や形でなくても思わず、ルーシー・リーらしい!、と溜め息をついてしまう器を2点。
上の器、地味な色合いなのにやっぱり微かに‘発光’している。
下の器、これもルーシーが得意とした、溶岩状にボツボツと泡を吹いたようなザラザラの肌合いの、大きな鉢。大きくてザラザラなのに、優雅。薄さのせいか、あるいは、踊るように波打つ楕円形の口縁のなせるわざか、マーブル状に混じり合う青味とピンク味の色帯の微細さゆえか。

上は若き日のルーシー・リー、下は晩年のルーシー・リー。
20世紀初頭のウィーンにて、裕福なユダヤ人家系に生まれる。
展覧会場では、BBC制作によるルーシー晩年についてのドキュメンタリーが大スクリーン(壁だった?かな)に映し出されていました。御年80を数えるおばあちゃんのルーシー、とても美しくて、可愛い(!)のですよ。飾らない人柄がにじみ出てて。
インタビュアーはルーシーの器のコレクターという、まぁいわば彼女の作品の大ファンの男性だったんだけど、釜から作品を取り出すルーシーに彼が「どうですか?(予想通りですか?だったかなぁ…)」みたいなことを聞くと、「(釜から作品を出す瞬間は)いつも驚きです」みたいなことを何気に答えていて(…うろ覚えですみません…)、すごく率直。垂直な釜の縁におなかをのっけて、中の器を取り出そうと釜の中に頭をつっこむおばあちゃんルーシー、釜の中からインタビュアーに「足を押さえて」って声をかける。インタビュアー、あわてて足を押さえるんだけど、なんか可笑しかったなぁ。足押さえなかったらそのまま釜の中に落っこちちゃいそうで。
あんなふうに実直に、さりげなく、何かに夢中なうちにいつのまにか年をとる、って、いいなあー。
(あ、タイトルに「妖精のような‘魔女’の実験室を覗き込む」って、書きましたよね。そう、宮崎駿『魔女の宅急便』の冒頭の、魔女キキのお母さん魔女コキリが薬草から薬をつくっている花いっぱいの部屋、あれを思い浮かべたからです。そういえば、修業中のキキが出会った画家の卵の女の子、年長少女のウルスラがひとりで住む森の中の小屋にもちょっと、ルーシーの仕事場に近い空気が流れてたな…)
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ルーシー・リー展
会場 国立新美術館
会期 2010年4月28日(水)~6月21日(月)
その後の巡回展:
→益子陶芸美術館 (2010/08/07~09/26)
→MOA美術館 (2010/10/09~12/01)
→大阪市立東洋陶磁美術館 (2010/12/11~2011/02/13)
→パラミタミュージアム (2011/02/26~04/17)
→山口県立萩美術館・浦上記念館 (2011/04/29~06/27)
ルーシー・リー(wiki) / ルーシー・リーの画像検索(google)
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