構造の脆さが本質的な欠点に思えるD・ヴィルヌーヴのサスペンス映画
■DVDで観たドゥニ・ヴィルヌーヴ『プリズナーズ』(2013)の後味が悪すぎて、というかこの嫌な感じ、不承認の意思表明をどういうことばにしたらいいのかなかなか整理がつかなくて、IMDbやrotten tomateを回遊し過ぎてしまう。
■サスペンス映画、スリラー映画、といったジャンル内映画と考えれば、非常に優れた作品なのかもしれない。ペンシルベニア郊外の森林地帯に近接した住宅街の、どこか寒々とした風景をじっと凝視するかのような視線が全編を貫いていて、映画の表現の質としては「A級」を感じるのです。観る人を惹き付けて離さない(私も惹き付けられました)。ただ、同じ監督の『灼熱の魂』(2010)でも同様に感じたのだけれど、その非常に込み入ったプロットは結果的に‘見せかけ’に過ぎず、観客への‘脅し’としてしか機能していないという気がしてならないのです。灼熱の魂におけるギリシャ悲劇を思わせるような重厚で大仰などんでん返しも、プリズナーズにおける二転三転の末の思いがけない結末、冒頭の鹿撃ちの場面から通奏低音のように響く聖書の文言や信心深いプアホワイトとしての主人公の造形、ラストシーンで幻聴のように地下から響く赤いホイッスルの音(彼は生きて発見されるのだろうか…)も、一見深遠で衝撃的であるかのような気分に陥るのですが、でも、そこに至るディテールを追っていくとあまりの構造のもろさに全瓦解してもしかたないんじゃないか、と、私は思ってしまうのです。本質はシンプルなジャンル映画なのに、なにか存在の根源に迫っているかのような「偽装」をしている、あるいは「錯覚」をしているんじゃないか、と。無駄な装飾が多すぎる、と。ヒュー・ジャックマンに焦点を絞って観ればいいのかなあ。いやぁそういうわけにもいかないし。私はやはりしっくりこないです。
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