『ジャンゴ 繋がれざる者』 / ‘聖域’を狙い撃ちして解体・爆発させる、タランティーノ的破壊/創造パワー!
最初に一言。
ものすごく面白い、「これぞ映画」です。
ぎりぎり映画館で見ました。映画館で見れて、よかったー。
タランティーノ、さすが。
前回『イングロリアスバスターズ』では‘ホロコースト映画’という聖域を、今回『ジャンゴ 繋がれざる者』では‘黒人差別告発映画’という聖域を、見事にエンターテインメント化して、ダイナミックに解体・爆発させてくれたタランティーノ、ほんとに見事。(ホロコースト映画は「戦争アクション」という、黒人差別告発映画は「西部劇」という‘ジャンル映画’の仮装を纏って、見事エンタメ化されました)
この芸当は、世界広しといえども、タランティーノにしかできない。たぶん。と思う。
(そして、『イングロリアス…』より『ジャンゴ』の方が、より文句なく痛快で面白かった!!)
(タラ作品の中で『レザボアドッグス』が好き、という人にもお勧め、かな。ミニマムな『レザボア』、絢爛たる『ジャンゴ』、どちらもだましだまされ反転に反転を重ねる展開が緻密で脚本が秀逸!)
歴史的背景や道具立ての設定が、これでもか、というほど破天荒です。ドイツから来た元歯医者さんの賞金稼ぎ、って、無理がない?、とか、超悪徳農場主ディカプリオがプロデュースするあの悲惨な「ゲーム」って、ほんとに南北戦争直前期のアメリカ南部にあったの?、とか、言わない言わない。というか、「おとぎ話(メタフィクション?)ですよ」を標榜するための大切な装置ですよね。これらの道具立て。
あの血なまぐさい「ゲーム」(←ネタバレを避けるつもりで無理して婉曲に言っている)は、エンタメ映画の1ジャンルなのでは、と私は思うのですが、これを物語の中核に組み込むことによって、この映画は”ドキュメンタリー性”や”社会性”などといった、題材から誤読されかねない‘まっとうで真面目な’属性を剥ぎ取られ、実はこれ‘映画のための映画’なんだよー、遊び(!)なんだよーーという、‘ほんとうのところ’を白日の下に晒します。
すべて、タランティーノの計算通り。
というか、これが、タランティーノ映画の本性。(と私は思う)
それにしても、クリストフ・ヴァルツ(ワルツ?)の荷馬車の頭にのっかっている歯の模型。馬車の歩みにつれていつもぶるんぶるんと揺れているのを見ただけで、まず、笑ってしまう。
これら、画面のあちこちにちりばめられた‘関節外し技’。
そして、「ブリュンヒルデ」(と「ジークフリート」)を登場させて、差別の時代のアメリカ南部の‘運命の愛’のものがたりを、北欧神話とワーグナーの壮大なオペラへと接続してしまう、荒技。
(ブリュンヒルデは、ジブリの『ポニョ』でもキーキャラクターでした)(ゲームとかそういう世界ではむしろ常套手段なのかな)
‘言葉(話される言葉)’についての独特のアプローチも、『イングロリアス…』を引き継ぐかのように際立っていた。(クリストフ・ヴァルツの役柄と連動しているのかもしれないけれど) 母国語でない言葉を話す者と、母国語を話す者の間の軋轢、誤解、嘲笑、、それらが絡み合った末のリアルな‘大乱闘’への発展。「異端」というものの存在を、「言葉の職人」たるタランティーノは、「へんな言葉を話す奴」を通して表現しているのだろうか。残念なことに、英語が母国語でない(という以前に英語が満足に聞き取れない)私には、英語ネイティブな観客には感得されるだろうこの映画における話し言葉の妙がよくわからなかったのですが。
最後に。
うがった見方をすると、タランティーノには、アイルランド系アメリカ人の母親を通して、チェロキー族の血が流れている。そのことについての強烈な自意識がある。その内面奥深くに眠る‘被差別民意識’のようなものが『イングロリアス…』と『ジャンゴ…』をタランティーノに撮らせた。
…と、そういうふうに私には見えるのです。
つまり、「ユダヤ人」と「黒人」という、アメリカ社会にとってはその地下深くに根を張る「差別」の二大テーマ(にして「聖域」)をエンタメ化(!!!)するなんていうことができるのは、タランティーノが、「被差別者」の感性を深く自らの中に内面化しているからなんじゃないか。
うーん。こんがらがってしまった。
楽しめばいいだけだったかもしれないのに。
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ジャンゴ 繋がれざる者
原題 Django Unchained
2012年アメリカ映画/2013年3月日本公開
監督 クエンティン・タランティーノ
出演 ジェイミー・フォックス、レオナルド・ディカプリオ、
クリストフ・ヴァルツ、サミュエル・L・ジャクソン
公式サイト / ヤフー映画 / eiga.com / IMDb / RottenTomatoes
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